金沢大学医学類（旧医学部）および金沢大学附属病院は兼六園に続く高台の尾根上に位置し、金沢城築城の際に山より切り出した石を引いたことに名が由来するとされる石引大通りに面しています。
宝町遺跡からは、縄文時代や中世の遺物もごく少量出土するものの、遺構は発見されていません。宝町遺跡の主な時代は近世です。　17世紀半ばに藩命で与力がこの地に集められました。金沢大学附属病院の前身となる金沢病院が、小立野に新築移転し業務開始したのが1905（明治38）年で、工事に着工したのが1901（明治34）年です。与力町の住宅地であった場所に大学の施設がつくられたため、江戸時代の与力の生活状況や明治維新後の与力子孫をはじめとする住人の様子がわかりやすい遺跡です。
大学附属病院という大型建物の建築により、江戸時代の遺構が大きく壊されている場所が多くあります。しかしながら屋敷を区切る溝や道路が検出され、絵図にあるような与力町住宅街の区画がわかってきています。屋敷の区画の中には、門跡、建物跡のほか井戸や多数のゴミ穴がどの区画からも見つかっています。また、金沢では発掘例の少なかった地下室を多数検出しました。
生活に使われるさまざまな道具のうち、陶磁器は長期に土中にあっても変質せず、大量にあり、嗜好を反映しているなどの点から、考古学的に歴史を復元するうえで有効な遺物です。江戸時代からは大量に陶磁器が生産され使用された時期であるため、与力町からも各地の陶磁器が大量に出土しています。特記すべきは九谷焼が多種出土している点で、地元で生産された陶磁器が流通していた様子がわかります。
病院や医学校時代になってからは、通常の遺跡からは出土しない特殊な医療道具が多数出土しています。「金澤大學」や「金澤大学醫院」「金大病院」、「金澤病院賄」、「金澤病院賄用」、「附属醫院」と名の入った病院で使用された食器は、大学や病院の変遷とともに食器の変化を示すものです。
隣接する経王寺や如来寺の寺域を画する溝も発見されています。絵図にある寺の規模が実際に明らかになりました。